第60回「放射線障害の核心⑤‐魚介類の汚染は大丈夫?海産の貝のプルトニウム濃縮は3千倍」

 魚介類はどの程度放射線核種を蓄積するのであろうか。今回は魚介類について、ICRP(国際放射線防護委員会)のデータ(2001年)をみよう。「1ℓに1ベクレル」の濃度の核種が存在する水中で生息した魚介類が、最大体内でどの程度濃縮するかを「魚体1kg当たりのベクレル」値で示すと。

セシウム137

淡水魚

200010000(コイ:840

海水魚

100

甲殻類

4080

海産の貝

30

ストロンチウム90

淡水魚

1575

海水魚

2

海産の貝

2

ヨウ素131

淡水魚

40

海水魚

10

海産の貝

10

プルトニウム

淡水魚

30

海水魚

40

海産の貝

3000

 これでみると、淡水魚の濃縮効果が非常に大きい。これは浸透圧が関係している。またセシウム137の濃縮度は一般に高い。海の貝類はプルトニウムの濃縮効果が極めて高い点は特に注意しなければならない。

 

 魚類についての濃縮度のデータはあくまで総括的な傾向を示すもので、個々の魚種については、さらに慎重に研究調査する必要がある。海産の魚についていえば、カレイのような底生の魚とサンマのような回遊魚とで取り込む放射性物質の量が大幅に違うと考えられ、また魚種によって、それぞれがもつ特有の代謝機構などにより濃縮度にも大きな差が生ずると考えられる。

 

 原発などの事故では、水素爆発や水蒸気爆発、ベント開放などによって一挙に噴き出した放射性物質が一種のキノコ状の雲霧(ブリューム)となり、その際の気象条件、地形に支配されて流されていく。この雲は、吹き溜まりとなるような場所で作物などを汚染するほか、特に雨によって大量の放射性物質を地表に落下させ、作物などの汚染をまねく。雨は沿海に生息する海中の生物にも影響を及ぼす。卓越した風を受ける地形の場所では、事故現場から定常的に放出される放射性物質の影響を長期にわたって受ける。怖いのは作物などの表面付着汚染(フォールアウト)ばかりでなく、土壌からの二次汚染。気象、海洋、土壌、農業、漁業、生物、放射線、コンピューター・シュミレーションなどの各分野のスペシャリストが力を合せて総合的に研究する場が必要であろう。

 

 東大や福島県農業総合センターは、福島第一原発事故の土壌、作物に対する放射性セシウムの影響の本格調査を開始している。去る5月中旬、原発から50km離れた郡山での水田の土壌調査によると、深さ1cmで1kg当たり1万~3万ベクレル、深さ5cmで同2000ベクレル。深さ7cmで同1000ベクレルであった。第50回でチェルノブイリ事故時、土壌の放射線セシウム汚染は深さ8cmで10分の1というデータを示しておいたが、郡山もこれに類似している。土壌交換の際かき混ぜは禁物である。

 

 セシウムの土壌への沈着は、粘土鉱物との強固な結合が考えられ、地下水などへは流れ出しにくいようだ。原発事故サイトでの汚染水の浄化・再利用プラントで、放射性セシウムの捕捉のために活用されているゼオライトは、Ⅰ種の粘土鉱物であることからも類推できよう。

 

 小麦の葉の表面からは1kg当たり110万ベクレルの放射性セシウムが検出されたが、これは事故直後のフォールアウトによるもので、事故後にできた葉は同わずか468ベクレルであった。ついでながら、セシウム汚染飼料を与えた乳牛では、5日後から搾乳中にセシウムが検出されたという。

(多摩大学名誉教授 那野比古)