第57回「逆転の発想 僻地のデメリットをメリットに 北見市でのITベンチャー会議」

 去る7月初め、北海道は北見市でIT関連ベンチャー企業の経営者たちが集まる勉強会が開かれた。地元北見からは、北見市長の小谷毎彦さんをはじめ北見工業大学の鮎田耕一学長の積極参加があり、道東での地域活性化に並々ならぬ意欲をみせていた。

 アルゴクラフィックス藤澤義麿会長やミクロスソフトの田中聡社長は北見市の出身とあって、北見市側の熱意も少なからぬものがあったようだ。東京からは、コーエー(テクモホールディンクス)の襟川恵子名誉会長や先輩格もかけつけてきた。

 北見はかつて世界でその名を知られた町であった。それは薄荷(ハッカ)である。1930年代来、北見は世界の薄荷生産量の70%を占める薄荷王国であった。薄荷はシソ科の多年草で英名ペパーミント。茎や葉を水蒸気蒸留するとメンソールを70~90%含む精油が得られる。それが突如として凋落する。新たなメンソール合成法が開発されたためだ。材料は似てもにつかないセリ科の植物。熱帯など安価、大量に生産されていたチモールを原料にニッケル触媒下で加圧水添すると簡単に合成メンソールが得られた。

 北見はかくして競争に敗れた。10年あまりで薄荷生産はゼロとなり、林立していた薄荷御殿も夢の跡と化した。北見の人たちは、新技術の物凄さ、恐ろしさを身をもって知っている。今は玉ねぎ、天さい(糖を採る)、じゃがいもで頑張っているが、それにしても再び何かを生み出したいという意欲も濃い。

 一方、北見工大の卒業生は、ほとんどが札幌や東京へと散ってしまう。工大生は北見を愛しているにもかかわらず、地元に受け皿がない。ならば受け皿を創り出せばいいのではないかという話になるが、その解決策のひとつがベンチャー企業の育成である。

 ベンチャーのネタはあるのか。工大の足許でみつけた路面状況を様々に設定できるシンプルでコンパクトな自動車運転シミュレーター。完成度は高く、すぐにでも製品化できそう。ポイントは路面設定。高価な運転シミュレーターはいまや各地に設置されているがこれはちょっと違う。

 最近、高齢者による事故が多い。運転走行ばかりでなく、路面の状況を変えることで自らの運転能力をチェックしてもらい、場合によっては運転免許証の返納を考慮するといった高齢者向けの安全確認シミュレーターとして製品化することもできよう。

 夢の跡をたどる薄荷博物館、ふと周辺を眺めると、その近くにはラッセル車や遠くで確認できなかったが寒冷地仕様らしい車輌が赤さびで放置されている。これは新たな夢を育む材料ではないか。

 鉄道ミュージアムと称するものは、いまや全国各地でオープンしている。しかし寒冷地に特化したとこはまだない。

 寒冷、僻地というと大きなマイナスのイメージだが、これを逆手にとる逆転の発想が重要なのだ。

 折しも北見駅を通る石北線では、SL列車のデモンストレーションがあり、女満別空港行き羽田発のJALは鉄キチでほぼ満席。近くの網走では、世界でも例をみないモーダルシフト車(鉄道・バス共用車)もテスト運用されている。そしてその先には、最近世界自然遺産に登録されたばかりの知床半島。

 もはや客集めの材料には事欠かない。寒冷地特化鉄道博物館を中心に、雄大な道東を駆け抜けるSL列車、モーダル・シフトの貴重な体験、さらには世界遺産の知床の探索と無数(?)に点在するゴルフ場と温泉!廃線を利用した実車の運転でもできれば鉄道ファンの蝟集は間違いないだろう(岡山県の山間、かつての鉱山町棚原には廃線となった片上鉄道を利用した運転施設があり、当日は不便なこの地に全国から鉄キチが集まる)。

 北見市役所には、東京生まれながら北見の大地に魅せられ、移住まで果たした職員も実在する。

 オタク、ヒマ、カネは新しい市場を生み出す。フィギュアの展示で全国から人を集める海洋堂ホビー館四万十はひとつの参考になろう。

(多摩大学名誉教授 那野比古)