第51回「メルトダウン事故、炉心内部の状況を示唆する放射性物質の沸点」

 沸点という言葉を御存知だろうか。水の場合、大気圧のもとで固体の氷を加熱していくと0℃で溶けて液体となる。これが水の融点であり、さらに熱していくと100℃で気体の水蒸気に変わる。これが水の沸点である。物質は加熱によって沸点を過ぎると蒸発して気体となる。これは原子炉炉心を形づくる燃料棒内においてもかわりはない。ウラン235の核分裂によって生ずる核分裂生成物は、それぞれ物質によって異なった「沸点」をもっている(カッコ内は融点)。このような沸点や融点は、お手元の「理科年表」などで簡単に知ることができる。
ヨウ素      184℃(114℃)
セシウム     658℃(28.4℃)
ルビジウム    688℃(39℃)
テルル       991℃(450℃)
ストロンチウム  1414℃(777℃)
コバルト        2930℃(1495℃)
〈参考〉
プルトニウム    3231℃(640℃)
ウラン          4172℃(1132℃)
ジルコニウム   4361℃(1852℃)

 ジルコニウムは中性子の吸収が少ないばかりでなく、非常に高い融点をもっており、さらに合金加工することによってさらに融点を上げ、燃料棒の構造材として用いられており、この場合の融点は2800℃にも達す。

 細長い筒状の燃料棒の中には、核分裂物質であるウラン235を3%ほど含む濃縮ウランが、円筒状のペレットとして詰められ、燃料棒の両端は固く封印されている。

 核分裂反応が進み、燃料棒内の温度が上昇してくると、前述の沸点の表に従ってヨウ素、セシウムが気化してくる。核分裂生成物には、キセノンのように初めから気体のものもあり、燃料棒はまるで風船のように膨らんでくる。これをスウェリングという。燃料棒は高い融点をもって高温に耐え、かつ風船作用に耐えることが要求される。

 ところが、燃料棒にピンホールや傷が生ずると、風船に穴を開けたように内部の気体が漏れ出してくる。やがて環境に排出され、モニタリング・ポストと呼ばれる放射線計測装置に引っかかる。

 つまりヨウ素131やセシウム137といった放射性物質がモニタリング・ポストで検出されるということは、少なくとも燃料棒に何らかの破損が生じていることを意味する。

 今回福島第一原発で大地震が発生したのは3月11日。ところがその翌日12日の午前8時過ぎには、原発から数キロも離れた地点でもテルル132が検出された。だが、この事実は6月初めまで何故か伏せられていた。

 しかし環境でのテルルの存在は重大な意味を持つ。テルルの沸点は約1000℃で、燃料棒の内部の温度が1000℃以上になっていることを示しており、むろん燃料棒には破損がある。

 実は、制御棒が挿入され核分裂は停止していても、第41回で述べたように、炉心では、核分裂生成物が別の核種へと崩壊することによって生ずる崩壊熱、いわば原子炉の余熱が発生している。その量は莫大で、停止直後は電気出力100万kwの原子炉(熱出力300万kw)の場合、熱出力7%、210万kwという熱が炉内に発生している。早急な冷却が行われないと、燃料棒の溶融という重大事故に発展する。

 水による冷却が行われないと原子炉ストップから数時間後には、燃料棒内の温度は3000℃にも達し、燃料棒は溶けてしまう。

 燃料棒内の急激な温度上昇を示唆するバロメーターのひとつが、周辺環境で検出されるテルル132でありストロンチウム90である。この検出は、炉心溶融が迫りつつあること(あるいはすでに溶融していること)を警告している。

 観測データの早急な公表は、事態の進展を占う上で極めて重要な事項である。

(多摩大学名誉教授 那野比古)