第47回「今夏猛暑なら大停電?‐中小企業これを契機にコスト削減にもつながる節電、省電に注力」

 電力ほど典型的なフロー製品はない。ストック、在庫はまったくきかない。精密な需要予測に基づいたリアルタイム生産が行われる。しかし需要が生産能力を上回るとお手上げだ。揚水発電などわずかなストックも焼け石に水で、産業界をゆるがす大規模停電が発生する。

 2011年5月現在、国内54基の原発原子炉中、13基が定期点検中で、さらに今回の東日本大震災に絡んで東京電力福島第一・第二、東北電力女川、日本原子力発電東海が停止している。そこに突如降ってわいたのが、総理大臣による中部電力浜岡に対する原子炉全面停止要請。中電は、東電に対する75万kwの応援送電どころか、足元の夏場の電力需要への対応すら覚束なくなった。

 最も厳しいのは東京電力。今夏猛暑なら、6000万kwと予想される1日の需要に耐えられない危険性が危惧されている。

 大規模停電といえば2003年夏の電力危機が思い起こされる。東京電力の全原子炉17基すべてが停止。夏場に必要とされる電力供給に赤ランプが点った。

 原因は東電のトラブル隠し。2000年に米GE社から派遣されていた技術者が、圧力容器内のシュラウドと呼ばれる隔壁に関する検査データを東電側が改竄していると原子力安全・保安院に内部告発したのが発端。シュラウドのひび破れが疑われるデータという。

 告発を受けた保安院はこれを放置したばかりでなく、2002年9月、告発内容を氏名とともに東電側に流してしまった。この事件が翌年発覚。東電側は責任をとって当時の会長・社長などトップ5人が辞任という異例の事態に発展、再検査が必要なため、全原発の原子炉がストップしてしまったのである。

 だがこの時は、大規模停電は辛くも回避できた。天が東電に味方した。2003年は異常な冷夏。電力需要が伸びず、最大1日5500万kwでやり過ごすことができた。

 過去には実際に大規模停電に至った事例もある。1987年7月23日の首都圏大停電だ。この日は猛暑で、突如1分間に40万kwも需要が急上昇。午後1時過ぎ、基幹変電所の母線の電圧が50万ボルトから37万ボルトに下がるという電圧崩壊が発生、電圧不足継電器が作動した。系統にぶら下がる川崎などの主力火力発電所では、この継電器の作動で負荷が急減したため発電機の回転速度つまり周波数が急上昇。周波数上昇継電器が働いて、発電機を系統から脱落させ、ついに同1時19分、広域停電が発生した。都心では30分後に何とか復旧したが、他の7県の回復には3時間半かかった。この間に生じた需要家の損害は莫大なものとなった。

 この時は、普及してきたインバーター付きエアコンなどのインバーターが仇となった面が指摘されている。インバーターは電圧が下がると機能を失わないように電流を増やす。これがさらに電圧を降下させるという悪循環に陥ったというのだ。

 さて、今年の夏はどうだろうか。願わくば天に冷夏をお願いしたいところだが、1週間先までの電力需要を1時間毎にグラフで示す「電気予報」サービスが、4月末からヤフーのサイト上で提供され始めたのは興味深い。

 またこれを契機に節電を省電につなぐ努力は、中小企業にとってコスト削減につながり決して疎かにできない。

 新日本製鉄では君津製鉄所から50万kwを、キリンビールの横浜工場は1万kwの電力を東電に供給している。だが、特徴的なのは、いずれも生産工程から排出されるガスを燃料としている点だ。前者では排水から発生するメタン、後者は副次ガスがエネルギー源だ。今後の自家発電の姿を指し示している。

(多摩大学名誉教授 那野比古)