第45回
「ベンチャーの独創に期待‐原発事故で注目「水素爆発警報器」水素エネ時代にも必須」

 今回の東京電力福島第一原発で一躍注目を集めたのは水素爆発。水素は空気中に3~4%以上含まれると爆発をおこす。特に容積比で水素2対酸素1は爆鳴気として知られている。

 ところが空気中に存在する水素ガスの濃度を簡便に知ることができる装置は、ありそうでないというのが現実である。

 水素ガス濃度の問題は、今後水素燃料電池やそれを搭載した自動車が普及してくると、さらに重要となってくる。水素ガス・ステーションや車の周辺、特に車内の水素ガスの検知は、水素爆発事故を未然に防止する上からも極めて緊急の問題である。

 筆者が90年代はじめ、堺南火力発電所内に設置された関西電力の先進的なプロジェクト水素燃料発電所をNHKとともに取材に訪れた時、漏洩水素に対する対策は、これ一重に風通しをよくするの一手であった。

 参考までに現在の分析法を眺めてみると、スマートなのは、水晶振動子を利用したガス測定法。これは水晶振動子の電極表面に、目的物質が吸着するとその質量変化によって発振周波数が変化するという現象を利用する。水晶振動子に、目的ガスを特異的に吸着する高分子の薄膜をつけておくと、ガスが選択的に吸着され、わずかに重くなった際の周波数の変化を検出する。その変化量からガス濃度も知ることができ、デジタル変換してパソコンなどに記録することも可能。チッ素ガスなどで“洗い流し”つまりガスを脱着させると連続的に計測することができる。

 質量変化をベースとするため、水素分子のように気体の中で最も軽く分子量がわずか2といったものでは、質量変化の検出が難しい。分子量が16といったメタンなどではガス分析器として実用化されており、バイオテクノロジーの分野でも多用されようとしている。

 これまでは水素ガスの検出といえば、熱伝導率方式が多用された。これは熱した白金の細線などにガスを当てると、ガスの種類によって熱伝導率が異なることを利用したもの。電流で加熱した白金線を封入した容器(熱伝導率セル)にガスを導入すると、ガスの熱伝導率(水素は大きく空気の7倍)により白金線から失われる単位温度当たりの熱量が異なる。加熱する電流を一定に保つと、これを抵抗値の変化として検出できる。構造がシンプルで、出力を電気信号として得ることができることから、連続測定に便利とされる。

 この方式は、基本的には2種のガスの混合物に適するが、吸収ガスクロマトグラフィと併用すると多成分のガスの分析が可能となる。

 実験室的には、塩化パラジウムの水溶液にガスを通して、パラジウムが析出することで水素ガスが検出できる。一方、高度な質量分析計は装置が巨大で高価。手頃とはいえない。

 パラジウム海綿とか過マンガン酸溶液は、水素を多量に吸収することで知られており、これを利用した吸収法による分析も行われている。

 水素は無味無臭無色で、化学的にも活発ではなく、どことなく捕え難い存在。宇宙で最も多い元素でありながら、身の回りで手頃に検出ができない。これまでの検出法は、水素がもつ物理的性質を利用したものがほとんどだ。

 車に乗ろうとしてドアを開けかけたとたん静電気の火花が水素に引火、青白い炎とともに車内で大爆発。フロントガラスやドアはふっ飛び、ドライバーはかなりの熱傷を負う。こんな事故を無くするためにも、簡便で安価な水素爆発警報器は水素燃料自動車にとって必須。アラームが出れば、自動的に車内を換気、水素を追い出す。

 この場合、濃度が何%という厳密な数字より、爆発濃度に水素ガスが達しているか否かが問題となる。

 ベンチャー企業の独創的な開発力に期待したい。

(多摩大学名誉教授 那野比古)