第40回「姿を現した黒幕「プルトニウム」―危険な肺への沈着」

 福島第一原発では3月15日、正門近くで中性子線を検出との報告があり、やがて土壌からプルトニウムが検出された。

 原子炉での燃料として濃縮ウランが使用されている。濃縮ウランとは、天然のウランには0.7%しか含まれていないウラン235の含有量を30%程度にまで高めたもので、これが核分裂連鎖反応でエネルギーを生み出す。この核分裂によって生ずるのがヨウ素131やセシウム137などの核分裂生成物だ。

 一方、残りを占めるウラン238は非核分裂性であり、エネルギーの産生には直接関与しない。しかしウラン238は、炉内で中性子を浴びるとこれを吸収し、プルトニウム239を主に、同238、240、241といったプルトニウムに変化する。

 これらが燃料棒の中の主だった核種だが、燃料棒が溶融するなどの事故が発生すると、これらが周辺にまき散らされる。セシウム137や特に気体のヨウ素131は30km以上にわたり飛び散る。しかしこれらと比べて2倍以上重いプルトニウムは数kmに限られる。
 
 プルトニウムは体内に入ると肺に沈着、肺がんの原因となることが危惧される。α線を放射するが(β・γも出す)、自発核分裂によって透過力の強い中性子線を放出するという特徴をもつ。特にプルトニウム240、238が強い。240では存在する全プルトニウム原子の17万分の1が、自分で勝手に核分裂して中性子を放出する。
 
 原発の燃料として抽出再利用されるプルトニウムは、福島第一原発ではウランと混ぜてMOX燃料として使われており、それだけまき散らされるプルトニウムも多くなる。

 ここで問題なのは、プルトニウム241。これはやがてアメリシウム241(半減期432年)という核種に変わっていく。アメリシウム241が厄介なのは、α線、中性子線ばかりでなく、強いエネルギーのγ線を放射する点である。

 蛇足だが、核ミサイルの弾頭は製造から数年以上経つと中身のプルトニウムを取り換えなければならないとされている。これは弾頭の中に存在していたプルトニウム241の一部がγ放射体のアメリシウム241に変わり弾頭から強烈なγ線を放出するようになるからで、取り扱いが極めて危険になる。

 なるべく安全なプルトニウム弾頭を作るためには、プルトニウム241が少ないプルトニウム(兵器級プルトニウム)を用いる必要がある。ウランを長く炉心内においておくと241が増える。そこで、少し燃焼させて取り出す。一般の商用原子炉と違って、燃料を常に取り換えやすくした炉を兵器用炉という。チェルノブイリ炉には実はこのような目的もあった。
 
 1945年から1980年にかけて、5ヶ国が423回217.2メガトン分の大気圏内の核実験(主にプルトニウム爆弾)を行い、計50億キューリーのウランやプルトニウムが放出された。特に北半球が顕著。東京では1963年が最大で、1平方キロメートルあたり200マイクロキューリーが降った。降下物の内訳はプルトニウム239が60%、同238が40%、残り十数%が同241であった。
 
 北半球では1961年から1965年にかけて毎年土壌1立方メートルあたり100ベクレルの最大降下物が検出されたが、その後漸減傾向にある。1986年だけはチェルノブイリ事故の影響で100ベクレルに急増しているが、1988年には0.01ベクレルと低くなり、現在は検出限界に近い状態。そこに福島第一原発からのプルトニウムが加わってきた。原発敷地内で最大1.2ベクレルであったという。

(多摩大学名誉教授 那野比古)