第37回「絶対に避けなければならない炉心溶融の“最悪のシナリオ”」

 東京電力の福島第一原子力発電所での事故。問題なのは炉心溶融に至った後の溶けた燃料棒の挙動である。溶融した燃料棒は、「デブリ」と称される塊となり、自己崩壊熱のため3000℃といった高温体となって動く。

 炉心溶融の典型的な事例として1986年、旧ソ連ウクライナで発生したチェルノブイリ原発4号炉のケースをみてみよう。高温のデブリが炉底の水と反応して水素を発生、着火爆発するとともに、火山でみられるような水蒸気爆発もこれに伴う。チェルノブイリ炉は黒鉛減連チャンネル炉という特殊な原子炉であったために、黒鉛に火がつき、火災と巨大な煙を発生した。

 これによってまき散らされた放射性物質は、半径300kmの範囲に及んだ。隣接するベラルーシにも達し、10万人以上が移住を余儀なくされ、周辺を含め被曝者は5000万人以上といわれている。広島型原爆の約500発分の汚染物質がまき散らされたと計算されている。

 デブリの挙動に関しては、高熱によって、燃料棒が入っていた圧力容器を突き破り、外側の格納容器底の水に反応して水蒸気・水素爆発を引きおこす。さらには爆発で残ったデブリ中の核分裂物質の量が限界質量を超えて亜臨界に達し、断続的に発生する連鎖反応によって大量の超危険な中性子がまき散らされる。

 ここまでに至らなくても、炉心から放出された放射性物質は、空気中への飛散によって直接生体と影響を及ぼすばかりでなく、作物家畜など食糧汚染、さらには水道の水源となるべき河川を汚染して水道水を危険な飲み水と変えてしまう。

 海洋に溶け込めば、魚介類や海藻も食べられなくなる。特に魚介類や海藻には、取り入れた特定の放射性物質を濃縮する作用があり、食物としての危険性を増幅する。

 筆者の初見は去る3月16日の福島県災害対策本部からの発表。市内に供給されている水道水から、1ℓあたり177ベクレルのヨー素131と58ベクレルのセシウム137を検出したという。

 ヨー素131やセシウム137は自然界には絶対に存在しない放射性核種で、ストロンチウム90などとともに原発での核燃料棒の中に蓄積される代表的な核分裂生成物。ベクレルは放射線の強さを示す単位のひとつで、1秒間に1個の原子が崩壊することを意味する。

 ちなみに国が決めた原子力災害時の飲食物摂取制限に関する基準によると、飲み水1ℓあたり、ヨー素131が300ベクレル、セシウム137は200ベクレルとなっている。

 ベクレルといえば、チェルノブイリ事故で放出されたヨー素131は、ケタ違いの10の18乗ベクレルといわれている。10の18乗ベクレルといえば、100万kwの原子力発電所が1年間に炉内に蓄積するヨー素131の量に等しい。セシウム137は10の17乗ベクレル貯まる。仮にこのたった1%が外部に放出されたとしても、ヨー素131だけでも生活環境は1兆ベクレルの1万倍という膨大な量の汚染が生ずる。

 ヨー素131の半減期は8日だが、実はヨー素129という核種も存在しており、この半減期は何と1570万年。量はヨー素131に比べ1億分の1ほどだが核燃料再処理工場事故では憂慮される核種とされる。

 ここにきてホーレン草、さらには沿岸海水などの汚染も相次いで発表されている。前述の国の制限基準では、それぞれ1kg当たり、ヨー素131が原乳は300ベクレル、ホーレン草など2000ベクレル。セシウム137は、原乳200ベクレル、ホーレン草など500ベクレル。生活環境汚染には、先ずは、頭髪、顔、手腕など露出部分はよく洗う。雨特に降り始めにかからない、野菜などもよく洗って食べるなどの注意から始める必要がある。

(多摩大学名誉教授 那野比古)