第36回「史上初、原発の最弱点「外部電源喪失」が主因の大事故 3重、4重の安全性こそ必要なはずなのに-」

 「外部電源喪失」…筆者が多摩大学3、4年生を対象にした「先端技術論」の講義の中で、原子力発電所(原発)でのもっとも恐ろしいリスクとして口を酸っぱくして語っている言葉だ。その恐ろしい事態を原因とした世界で初めての事故が何とわが国で起こってしまった。

 この講義では、原発のマイナス面としてチェルノブイリやスリーマイル島原発事故の話もしている。だがこの2件の端緒はいずれも、外部電源喪失が直接原因となるものではなかった。チェルノブイリ4号機事故(1986年4月、旧ソ連ウクライナ)では、ある実験中に急に活発化した核反応を止めようとしたが、すでに燃料棒が過熱、変形していて制御棒を挿入することができなかった。

スリーマイル島2号機事故(1979年3月、米ペンシルバニア州)では、圧力逃がし弁が開きっ放しとなり、原子炉内の冷却水が蒸気となって消失、燃料棒が裸となった。この時、制御室内では、圧力逃がし弁「閉」の誤表示が続いていたのが主因だった。

 いずれの場合も、制御室内は大混乱。誤操作が誤操作を生み、100以上のアラームが鳴りひびいてパニック状態。その中で、事故の鎮静化への唯一のカギを握るECCS(緊急炉心冷却装置)のスイッチを誤って切ってしまったため、炉心の冷却が不可能となり、燃料棒が露出、溶融。大事故に発展してしまった。

 ここで注意したいのは、いずれの場合も外部電源は確保されていたことだ。ECCSを切り離すという誤操作がなければ、事故の収拾は可能だった。これらの事故については拙著『ハイテク事件の裏側』(NTT出版、1998)に詳しい。

 巨大な原発も、内部の操作、駆動源は外部から供給される電力に頼っている。これを「外部電源」という。135万kwも発電している原発も、内部ではその1kwも利用できないのである。緊急の際、特に超危険な炉心の冷却水喪失(LOCA)に対してECCSを動作させるのも外部電源。これが無くなってしまったら、原発は一貫の終り。

 今回の東京電力福島第一原発での事故は、地震のため外部からの電力供給が断たれ、その際直ちに起動するはずだった14台にも及ぶジーゼル発電機も全て作動しないという断末魔的な状態に陥ち入った。

 外部電源喪失が主因となった史上初の原発事故と呼ばれる由縁である。

 スリーマイル島では、外部電源は2系統の電力会社から受ける体制をとっていたともいわれる。原発にとって生死のカギを握る外部電源に関して東電は、喪失に備えて、ジーゼル発電機に加え、同一周波数の電力源をもつ東北電力からの緊急受電も考慮しておく必要があった。

 全てのシステムの首根っ子をおさえるような重大ボトルネックに対しては、原発に限らず3重、4重の安全性を見越す必要性を強く訴えている。

(参考)
 原子力事故に関する国際原子力事故評価尺度(0~7)
 レベル7:膨大な量の放射性物質を外部放出(1986 チェルノブイリ4号機事故)
 レベル6:大量の放射性物質を外部放出
 レベル5:炉心重大損傷と放射性物質放出(1979 スリーマイル島2号機事故)
 レベル4:少量の放射性物質放出と作業員の深刻な被曝
 レベル3:極小の放射性物質放出と作業員の被曝
 レベル2:施設内の放射能汚染(2004 関西電力美浜3号機事故)
 レベル1:安全性を脅かす恐れがあったトラブル

(多摩大学名誉教授 那野比古)