第35回「『2015年問題』と対中国との新たな展開」

 最近中国に進出する日本企業の動きに顕著な変化が現れている。中国に新たに設立された現地法人の数をみると、2004年には約550社を数えた法人設立も、2009年には約130社と大幅な減少を見せているが、その中味は大きく変化した日本企業の中国に対するベクトル、さらには中国の国内事情を如実に物語っている。2004年には全体の65%弱を占めていた製造業が、5年後には23%に激減、代わって非製造業の進出が著しくなった。2007年以降、非製造業が製造業を逆転している。

 これまでの製造業の中国進出には2つの側面があった。ひとつは安価な労働力の確保、もうひとつは親会社や主要取引企業の中国進出に伴っての下請け企業の“あと追い”進出である。

 しかしこの安価な労働力狙いの進出はここにきて目算が大きく狂い始めている。それは中国での急激な賃上げの動きだ。特に沿海部では労働力不足が表面化、賃金2割アップで労働者を引き止めるといった話が普通に語られるようになった。

 中国では「2015年問題」が暗雲としてのしかかろうとしている。元凶は中国の一人っ子政策。そのおかげで15歳以上の労働力は2015年をピークに減少に転ずるとみられている。中国を低コストの労働力調達の場とする従来の見方は抜本的にくつがえされる可能性がある。

 非製造業の中国への進出は、中国を製品・サービスの巨大な市場としてとらえる視点からだ。中国では賃上げに伴う収入の増加により、労働者の可処分所得が飛躍的に向上している。それは中国の人のブランド指向、健康・環境への意識向上に伴うまがいもの排除指向とあいまって、これまでは相手にされなかった高級品が中国市場で熱烈歓迎されるようになった。

 2007年の製造業・非製造業の逆転劇はこのような事情を物語っている。

 ところで我が国の製造業の中国進出にブレーキがかかったからといって、これは中国の製造業の衰退を意味するものではない。製造の担い手が中国プロパーの人々の手に移っていく前兆にほかならない。中国はいま、生産性や品質の向上に真剣に向き合わなければならない立場に立とうとしている。

 これを示すかのように、東京ビッグサイトなどで開かれるハイテクがらみの展示会には、中国からのメーカー、バイヤーの姿が至る所で見られるようになった。聞く所によると、ホテルからバスを仕立てて会場に乗り込むグループも少なくないという。

 また先進的な中国メーカーやバイヤーの姿勢は、これまでのように技術、ノウハウを盗むという方向ではなく、いいものはどんどん買って使っていこうという積極的な方向へと舵がきられ始めている。

 賃上げは生産性の向上によって打ち消すというかつてわが国が60年代にたどった足跡にやっと中国も気が付き始めた。

 これからの中国との付き合い方は、日本としても大きく見直す必要に迫られている。

(多摩大学名誉教授 那野比古)