第26回「新たなコミュニケーション・ツールとしてのロボット」

 ロボットが新しい形のコミュニケーション手段として登場しようとしている。京都府精華町にある国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は、インターネットを通してさまざまな動作を遠隔操作できるほか、携帯電話を着装して遠隔会話もできるという卓上型ロボットを開発した。関連企業のATRロボティクスが来年にも販売に乗り出すという。

 高さ30cm、重さ2kgの軽量ながら18個のモーターを内蔵、まぶたまで動かせて表情豊か。ディスプレー画面上の平面的な視覚情報から一歩抜け出した新たなコミュニケーション・ツールとして注目される。

 ロボットの遠隔操作といえば1998年5月、東京・銀座の歩行者天国での奇妙な1日を思い出す。

 散歩している歩行者に、突如「こんにちは。いい天気ですネ」との声。振り向くと、そこに立っているのはロングスカートをはいた若い女性かと思いきや、何とほぼ等身大の蛙のような顔をしたロボット!「ロボットが銀ブラしているぞ」と周辺はたちまち黒山の人だかり。ロボットは愛想よく会話し、質問にもちゃんと答えてくれる。

 実はこのロボットを操作していたのは1,000km以上離れた北九州市、そこに当時本社があったロボット・ベンチャーのテムザック(現在、本社は宗像市)であった。

 このロボット「テムザックⅢ」にはパソコン基板が2台搭載されており、1台は映像・音声制御用、もう1台はロボット操作用。いずれもそれぞれ携帯電話に接続されており、テムザックは2台の携帯電話を介してこのロボットに銀座を散策させていた。むろん予期せぬ故障などに備えて、2,3人の社員が目立たないようにロボットを監視していたのはいうまでもない。

 実はこのロボットには“買い物ロボット”としての壮大な夢があった。例えば、パリに行かなくても有名ブランド店で買い物ができる。パリに置いてあるこのロボットを、レンタルで借り、日本の自宅からモニター映像を見ながら遠隔操作で街歩き。店員と会話しながら買い物をするのである。自分の分身となって平坦な場所ならどこにでも行ってくれる。脚の不自由な人でも買い物OKだ。

 この実証テストが北九州市で行われたことがある。その時の様子はこんな具合。

 ロボットが惣菜店に入っていく。ロボット「おばさん、この干物とほうれん草1束ちょうだい。代金は手持ちのカゴの中から取ってー」。これが問題も引きおこした。ある店では、「こんにちは」といいながら入って来た奇怪な物体にびっくり、警察に電話されたことも。警察側は道路交通法違反の疑いありと調べたわけだが、道交法にはロボットについての規制は記されていない。結局注意を受けただけで、このロボット無事放免となった。

ついでながら、携帯電話によるロボットの遠隔制御操作については、テムザックは日米で特許を取得している。

(多摩大学名誉教授 那野比古)