第25回「戦略物質レアアース(希土類)資源、特にディスプロシウムの周辺を探る」

 レアアース(希土類)の埋蔵量は現時点で、世界で約1億トン。このうち中国が3,600万トンと36%を占める。次いでカザフスタンなど独立共同体が1,900万トン、19%、米国1,300万トン、13%などとなっている。

 中国は資源的に突出しており、内蒙古のバイユンオボ鉱床は世界最大のレアアース鉱床だ。レアアースを含む鉱物として産業上重要なものはバストネサイトとモナザイト。前述のバイユンオボ鉱床や同じく中国のマオニューピン鉱床などは、炭酸塩火成岩のカーボナイトに伴うバストネサイト鉱床として知られている。

 カーボナイト起源のバストネサイトといえば、米国のマウンテンパス鉱床を忘れてはならない。米国のレアアース埋蔵量1,300万トンはすべてこのマウンテンパスによるものだ。

 特記しなければならないのは、中国には華南の江西省などに中国でしか見られないイオン交換型といわれる特殊な鉱床が存在する点である。レアアースがカオリナイトなど粘土鉱物の表面に電気的に吸着した形で産出する。弱酸によるイオン交換反応で簡単に回収できるのが特徴で非常に低コスト。ロンナン鉱床、シュンウー鉱床が有名だが、実はここにディスプロシウムなど重希土類が集中している。中国がディスプロシウム産出を100%握っているのはこのためである。

 珪酸塩鉱物の中にもレアアースを含有するものは少なくないが、これらは固くて分解するのが大変。とてもコスト的には太刀打ちできない。レアアースの含有量も米国のマウンテンパス鉱床や中国の鉱床では数%以上あり、他の鉱物資源は含有量からも見劣りがする。インドのケララ州や南アのリチャードベイなどには漂砂鉱床としてモナザイトが豊富に存在する。だがモナザイトはトリウム資源として重要であり、核関連物質として採掘が規制されている。かりにモナザイトからレアアースを抽出するにしても、トリウムが崩壊して生じるラジウム238(半減期5.8年)を含んでおり、放射能対策上完全除去が必要など問題が多い。

 永久磁石がもつ磁力はここ十数年で飛躍的に向上した。かつては磁石の王者であったフェライトも、その10倍の磁力をもつサマリウム・コバルト磁石、さらにその2倍の磁力をもつネオジム磁石の出現で王者の地位を奪われた。弱点は温度が高くなると磁力を失うことで、キューリー温度も300℃強(サマリウム・コバルト磁石は700℃以上)と非常に低い。この実用化への難点を解決したのがディスプロシウムの添加であった。

 発電機として活躍している同期発電機は、ローターを水力やタービンで回転させるとともにコイルに直流電流を流して磁界を作り、固定のステーターのコイルに交流電流を発生させている。逆にステーターに交流電流を加えるとローターが回転してモーターとして働くことになるが、ローターのコイルに電気が発生してしまう。強力な永久磁石の出現はこの問題を解決した。ローターの表面にネオジム磁石を張りつけたり、埋め込むことによって効率的な「永久磁石同期モーター」(PMSM)が開発された。それでもローターの回転はステーターのコイルにも電流を発生させてしまう。モーターでは逆起電力と呼ばれているが同期モーターでは、ステーターに加える電力とこの逆起電力が釣り合うところで回転数の上限が決まるという性質がある。いまや電車もPMSM時代、それどころか超巨大市場として電気自動車が眼前に見えている。

 頭が痛いのは、肝心のディスプロシウムの入手に暗雲が垂れこめていることだ。この解決策は、ディスプロシウムを使わない強力磁石か強力モーターの開発しかない。いま我が国では総力を挙げてその糸口を見出そうとしており、ベンチャー企業の腕の見せ所ともなっている。

注)レアアース(希土類)といえば何か特殊なものに聞こえるが、実は古くから身近に存在している。発火石型ライターの発火石である。これはフィッシュ・メタルといわれるもので、レアアースのセリウムを半分近く含む希土類元素の混合物である。

(多摩大学名誉教授 那野比古)