第16回「もっともなEVに関する御質問」

 電気自動車(EV,プラグインハイブリッド車も含む)についていろいろ質問を頂いた。例えば、「なぜ急速充電でも2~30分待たなければならないのか」といった問題である。日産自動車のEV「リーフ」は24kwhのリチウムイオン電池を積んでいる。「それなら290kwの電力を注入すれば計算上は5分で充電できるはず。不足分をみても10分で済む」という意見である。ちなみに家庭用の100V電源では満充電に16時間かかる。なぜか。

 通常リチウムイオン電池では理論上電池を1時間で充電できるはずの電流の持続的な定電流で充電を開始する。電池がリチウムイオン電池で一般的な4.3Vに達したら今度は4.3Vの電圧を維持する定電圧充電に切りかえる。こうして満充電が達成される。定電流・定電圧充電である。定電流充電だけでは電池容量の80%程度までしか充電できない。

 定電流充電が必要な理由は、正極での金属リチウムのデンドライト(極細針状物質)の発生によるショートの問題と、これはあまり知られていないのだが負極での非常に反応性の強い酸素(発生機の酸素)の生成による発熱・発火の問題である。この2つのリスクは、現在主流である正極にコバルト酸リチウム、負極に炭素という構成では特に逃れることができない。定電流・定電圧充電はデンドライトと発生機の酸素の生成抑制に不可欠な方法として開発された。恐ろしいのは過充電で、火災を引き起こす危険性がある。実際にノート・パソコン用の電池でかつて火災に至ったケースがあった。冒頭に記したような充電法は危険極まりない話となる。

 次の質問はガソリンでいえば燃料タンク容量に当たるエネルギー密度の問題。これは航続距離に関連する。現在リチウムイオン電池の場合容積1ℓあたり200wh程度にしかすぎない。だがエネルギー密度を上げるのは簡単な話ではない。煎じ詰めれば、適切な正極材料と負極材料の組み合わせとなるが、正極材料ではリチウムに対する電位の高い材料を探して高い電圧をかせぐしか方法がなく、負極材料に関してはスズやシリコンといった有望材料はあるものの、リチウムイオンを吸着すると3,4倍にものぼる体積膨張という頭の痛い問題がある。それにただ単に正・負極材料の組み合わせばかりでない、上述の安全性、さらにはコストの問題がある。

 正極材料ではリン酸鉄リチウムが安全面からEVでもてはやされているが、エネルギー密度からいうとコバルト酸リチウム電池の1.5倍もの電池を積み込まなければならない。高容量、安全性、さらにはコストを同時に満足させるような電池は見当たらないというのが現状である。

 電池内での電気の担い手をリチウムイオンから他のもの、例えばマンガンイオンに変えるという抜本的な電池構造の変更などでもない限りこの問題の解決はむずかしい。ただここで新たに姿を現してきたのは微細化。電導性の悪い材料も微粒子化とカーボンなどのコーティングによってまったく新しい素材に生まれ変わる。ナノテクノロジーが産業界で本領を発揮する新しい分野といえるかも知れない。

(多摩大学名誉教授 那野比古)