第15回「9300対200が示唆するもの」

 米シリコン・バレー発のベンチャーが開発した超高性能電気自動車「テスラ」がいよいよ我が国でも販売されるという。価格は約10万ドルと高価で富裕層狙いだそうだ。だがこれは電気自動車(EV)に全般的にいえることだが、既存のガソリン自動車を代替して爆発的に売れるだろうか?最大の問題点は燃料タンク容量、つまり満タンにしての航続距離である。燃料タンク容量は一般的にエネルギー密度で表わされる。1リットルという単位体積当たりのエネルギー密度をみると、ガソリンの9300wHに対し、リチウムイオン電池はわずか200wHにしか過ぎない。ガソリン車では50km走れるところが、電気自動車ではわずか1kmである。

 それにリチウムイオン電池は価格が非常に高い。1kwのリチウムイオン電池代は約15万円。電気自動車のコストの大部分は電池代で占められているのである。

 電気自動車は充電満タンにしても長くて航続距離は150km程度。その度に充電スタンド(これもインフラとして整備されての話だが)に立ち寄り充電しなければならないが、それに要する時間は急速充電といえども15分から20分。それでも“満タン”の80%にしかすぎない。その間ドライバーはポカンと待っていられるだろうか?

 充電時間を早くするには、流し込む電流を大きくすればよいではないかとお考えの方もあろうが、リチウムイオン電池ではそうはいかない。電池の正極に一般的に使われているコバルト酸リチウム(LiCoO2)は発熱に対する安定性が悪く、ある限界以上の電流は流し込めない。発熱が低く熱安定性があるリン酸鉄リチウム(LiFePO4)が注目されているが、今度はエネルギー密度がコバルト酸リチウムの60%下がってしまう。

 急速充電に関しては負極にも問題がある。現在主流の炭素に代え、スズや亜鉛を用いると急速充電対応が可能になるが、スズや亜鉛はリチウムイオンを吸収すると、体積が2~3倍に膨らむという欠点があり、おいそれとは採用できない。

 結局のところ、電気自動車は配達や買い物など近場用途で、遠くはガソリンの助けを必要とするハイブリッド型の車にならざるを得ない。ポリタンク1個のガソリンがあれば山の中のガス欠にも対応可能だが、電気自動車では“電欠”になると山の中では措置のしようがない。

 こうみてくると、究極のガソリン車代替は、水素を燃料とする水素燃料電池車、あるいはエタノール改質水素燃料電池車などが理想として見えてくるが、これも水素スタンドの充実という厳しい現実が立ちはだかっている。ダイムラー・ベンツ社は燃料電池自動車を本命とみていうようだが、空気・亜鉛電池自動車などとんでもない技術が実用化される可能性もある。

 銅メッキを逆手にとったリチウム・銅イオン電池など新たなイオン電池も試作されている。この激動の時代は、ベンチャー企業にとっては宝の山。電池ばかりではない。低・高速回転にわたる高トルク・モーター、小型高効率のインバーターからそれらを制御するさまざまなソフトウェア、さらには電気自動車時代に必要なインフラに至るまで、今こそ斬新なアイデアが求められる時代となっている。

(多摩大学名誉教授 那野比古)