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「日米ものづくり連携論」

 米国発の世界同時不況は、図らずも日米の両経済大国に、車の両輪となって世界経済を再生する使命が与えられたように思う。そのキーワードは“日米ものづくり連携”。日本の呼びかけで、オバマ新政権に“ものづくりへの回帰”を促がし、米国は早期に「金融資本主義」から「ものづくり資本主義」への転換を図る。日本は、中国など東南アジア諸国を中心とした工場進出から米国シフトへと大きく舵を切る。そして、世界の厄介ものの投機資金をものづくりの実物経済へと向かわせる。日本はものづくりを通じた対米協力により、米国の保護貿易主義の台頭を防ぐと同時に、日米機軸の経済関係を再構築することが可能になるのである。

 米国経済破綻の原因は、言うまでもなくサブプライムローンに象徴される金融至上主義にある。米国人自身の世界の常識からかけ離れた生活習慣も破綻に拍車をかけた。預金する習慣もなく、欲しいものがあればカードローンを使って何でも買い漁る。「歌を忘れたカナリア」のように、ものを作る大切さを軽視し、必要なものがあれば中国を始めとする海外から安易に輸入する。米国人に節約の考え方が欠如しているのだ。
 しかも世界一豊かな国といっても、米国は人口3億人のうち約3分の1は貧困層というのが実態だ。そのような国が新興国にものづくりを委ね、輸入製品に依存する生活を送っている。金融機関の財源はほとんど外貨からの借入金である。歪な経済構造を招いた原因の一端は、ものづくりの軽視にある。米国も西部開拓とともにものづくり力を培ってきた歴史があるのにである。

 一方、オバマ新大統領は、総額75兆円を投じて400万人の雇用を創出する景気対策を高らかに打ち出した。その中身は減税であったり、道路・橋・公共施設あるいは環境と新エネルギー開発を中心とした公共事業のいわゆる「グリーン・ニューディール」政策だ。
 だが、一抹の懸念材料は、オバマ新大統領が一時的に景気回復しても過去と同様のものづくり軽視の経済運営を踏襲すれば、再び米国発の世界同時不況が起こることは否定できない。“チェンジ”を旗印に掲げて登場したオバマ新大統領が、足腰の強い米国経済に再生したいのであれば、是非、この機会を捉えて大型景気対策に魂を吹き込む「ものづくり大国の復活」に向け、国民の心を一つにするよう呼びかけるべきである。
そうでなければ、我が国を始めとした世界各国が再び米国政府の経済政策の過ちに巻き込まれる恐れがあるからである。

 半面、米国のものづくりへの回帰は、日本の対米輸出が減少し、結果的に米国の保護貿易主義を助長することになると懸念する向きもあろう。だが、日本との「ものづくり連携」をバックに国内経済が活発化し、失業者が減少に転じればその分、市場が拡大することを意味する。借金で賄う一時的な大型景気対策では、保護貿易主義が台頭する可能性は十分あり得る。それだけに「日米ものづくり連携」は、米国を始めとする諸外国に、「連携」に象徴される国際協力で危機を乗り切ることの大切さや有効性を知ってもらう模範例を示すことになるわけである。

 現実問題として米国の大規模な景気対策は、我が国産業界にとっても大きなビジネスチャンスである。理由は環境と新エネルギー開発を始めとした公共事業で、世界のトップ水準を誇る日本の先端技術や中小企業を中心としたものづくり力が、大きく寄与する可能性を秘めているからだ。BRICsと並ぶ新たな市場の誕生と捉えることもできるのである。
 その意味では日本の研究開発型ベンチャー企業にとっても、世界同時不況は対米進出はまたとない機会である。とくに環境や新エネルギー開発さらにはバイオベンチャーの分野は、現地でエンジェル投資家が投資してくる可能性も期待できる。

 「日米ものづくり連携」の方法は、技術提携・技術協力・技術輸出、現地生産、資本参加、人材育成支援など枚挙に暇がない。しかも米国は良い製品であれば、取引実績のない中小企業でも簡単に新規参入できる。とくにカントリーリスクの観点からも、ものづくり企業が米国に進出するメリットは計り知れない。それは政治的なリスクだけでなく、模倣大国中国の知的財産を考えただけでも明らかだ。

 同時に今回の金融危機は、これまで良かれと思っていた輸出依存の経済構造、中国など東南アジア諸国での現地生産を経由した加工貿易システムが、大きな曲がり角にきたことを知る機会となった。
 東洋経済の調査によると、2008年半ば時点における製造業の海外進出(出資比率10%以上)日本企業数は、14,403社。国別ではトップの中国が3,053社で、第2位の米国は中国の半数強の2,220社に過ぎない。日本企業が東南アジア諸国で生産して米国に輸出するのではなく、米国に直接投資して現地生産する余地があることを数字が示している。
 日本の産業の孤立化を防ぐためにも、官民一体となって米国の政府と関係機関に、「日米ものづくり連携」を呼びかけてみては如何かと思うのである。

起業支援ネットワークNICe 編集主幹 廣谷清明