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「ピンチをチャンスに」

世界経済の大変動の中で2009年が始まった。昨年の経済状況を振り返ると、前半には原油を始めとする資源価格の急激な高騰があり、また、後半には9月のリーマンショックを契機として世界金融危機が発生。こうした中、我が国実体経済も、輸出の減少と消費の冷え込み、雇用環境や資金調達環境の急速な悪化など、かつてない急激なスピードの環境変化に直面している。

世界金融危機は、日本のベンチャー・ファイナンスにも波及している。株価の低迷や上場審査の厳格化もあって、日本の新興株式市場の上場企業数は、昨年42社と2007年の106社から6割減。2006年には155社の上場があったことを考えると、その影響は計り知れない。上場を投資の「出口」とするベンチャーキャピタル投資やエンジェル投資についても資金供給が急速に細ってきている。ベンチャーの世界では、「米国では○○なのに、日本ではそうではない。」という語り口が一般的だが、金融危機の影響やベンチャー企業上場の不振は米国でも日本と同様(あるいはそれ以上)のようである。NVCAによれば、2008年のVC投資先の上場はわずか6社にとどまった由である。また、米国でも金融危機の影響でベンチャーキャピタル投資の資金が枯渇。すでに出資をコミットしたLPがキャピタルコールに応じられない状況も多々生じているという。セコイヤ・キャピタルでさえ、ここ数年は現状の資金で生き延びよ、と投資先企業に呼びかけた由である。

こう書くとベンチャー企業の先行きは暴風雨という感じであるが、一方で、昨年10月以降、お会いするベンチャー経営者の方々に景況や事業の見通しを伺うと、大多数の方は、景気の先行きや金融面での影響を気にされつつも、比較的冷静に事態をご覧になっている様子であった。私に弱音を吐いたところで私が何か即座にお手伝いできる訳ではない-ということを割り引いても、ちょっとびっくりする位であった。これまでも様々な困難を乗り越えてこられた企業経営者の自信と実力なのだろうかと改めて思った。中には、「ベンチャー企業にとって景況全般はそれほど影響がない。むしろ、景況全般の悪化によって競争相手が弱る今こそ、ベンチャー企業にとってはチャンスである。」とおっしゃる方もいらっしゃった。

確かに、世界経済が大変動しているということは、時代の変革期でもあるということである。ベンチャー企業にとってはチャンスにもなりうるということであろう。90年代後半の金融危機の際がそうであったように、優秀な人材が流動化してその一部がベンチャー企業に流入してくる可能性もある。ピンチをチャンスとして、新しいパラダイムでの成長をねらうベンチャー企業が数多く生み出されることを期待したい。

政府としては、先ずは日本経済の目前に迫った危機を乗り越えるべく、中小・小規模企業への30兆円規模の貸付・保証枠を確保するなど資金繰り対策を講じているところである。しかし、このような緊急対策に取り組む一方で、中長期的な観点から、将来の「新たな成長」に向けた取組を進めていくことも重要である。経済産業省も、今次通常国会には、産業活力再生特別措置法改正法案を提出し、企業の資源生産性向上に向けた投資を税制等で支援する制度の創設や、イノベーション創造機構の創設などを目指している。加えて、日本が先陣を切って今の危機を乗り越え、未来をたぐりよせることができるよう、具体的な成長シナリオづくりを、早急に行うこととしている。

いうまでもなく、我が国経済の成長とイノベーションを進めていくためには、新しい技術や新しいビジネスモデルを生み出すベンチャー企業の役割が極めて重要である。特に、100年に一度ともいわれる急激な経済環境の変化に直面している今こそ、我が国のベンチャー企業を支える皆様の知恵と瞬発力で、我が国経済の新しい成長に向けた様々なイノベーションを生み出していただくべく、関係者の一層の御奮闘・ご活躍を期待せずにはいられない。

経済産業省 経済産業政策局 新規産業室長 吾郷 進平